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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)159号 判決

東京都渋谷区道玄坂一丁目二二番一一号

原告

日測エンジニアリング株式会社

右代表者代表取締役

山崎三郎

右訴訟代理人弁理士

柳田征史

小林和憲

右訴訟復代理人弁理士

佐久間剛

大阪市北区天神橋三丁目五番六号

被告

タバイエスペツク株式会社

(旧商号 株式会社田葉井製作所)

右代表者代表取締役

小山栄一

東京都板橋区若木一丁目二番一八号

被告

板橋理化工業株式会社

右代表者代表取締役

設楽正太郎

東京都千代田区神田神保町一丁目六三番地

被告

伊藤精機株式会社

右代表者代表取締役

伊藤一

被告ら三名訴訟代理人弁理士

土橋秀夫

江藤剛

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が昭和五五年審判第九二二〇号事件について昭和五八年六月三日にした審決を取消す。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決

2  被告ら

主文同旨の判決

第二  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「複合環境試験装置」とする特許第九七三一四三号発明(昭和五一年六月三日出願、昭和五四年三月二八日出願公告、同年九月二八日設定登録。以下「本件発明」という。)の特許権者であるが、被告らは、昭和五五年五月二三日本件発明の特許無効の審判を請求し、昭和五五年審判第九二二〇号事件として審理された結果、昭和五八年六月三日、「特許第九七三一四三号発明の明細書の特許請求の範囲第一項ないし第五項に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決があり、その謄本は、同年八月三日原告に送達された。

2  本件発明の要旨

(1)  恒温槽2と加振器1とが組み合わされた複合環境試験装置において、前記恒温槽を加振器の上方において水平方向に移動可能にするとともに、前記恒温槽の底部に、該恒温槽が加振器の上方に移動されたとき、加振器の上方に突出した加振軸7を恒温槽の前面から受け入れる切欠部、および該切欠部に連設した前記加振軸の外周の後半部に密着する第一半円部40を設け、また前記切欠部に、前記加振軸の前半部に密着して前記第一半円部とともに加振軸の挿入孔を形成する第二半円部39を有する底部蓋34を嵌合可能に設け、この底部蓋を取り外して前記恒温槽を移動することにより、前記加振軸を恒温槽から抜き出して恒温槽と加振器とが分離されるようにしたことを特徴とする複合環境試験装置。

(2)  前記加振器の両側に一対のレールを設け、また恒温槽の下部に一対のキヤスターを設けて、恒温槽を移動可能にしたことを特徴とする特許請求の範囲第一項記載の複合環境試験装置。

(3)  前記底部蓋が恒温槽の前方から抜き出せるようになつていることを特徴とする特許請求の範囲第一項記載の複合環境試験装置。

(4)  前記底部蓋が恒温槽の底部から上方に取り外せるようになつていることを特徴とする特許請求の範囲第一項記載の複合環境試験装置。

(5)  前記底部蓋が恒温槽の底部に枢着されていることを特徴とする特許請求の範囲第一項記載の複合環境試験装置。

(別紙図面(一)参照)

3  審決の理由の要点

(一)  本件発明の要旨は、前項記載のとおりである。

(二)  ところで、「同心」第一三号、株式会社田葉井製作所(被告タバイエスペツク株式会社の旧商号、以下「田葉井製作所」という。)一九七〇年九月発行の第一四頁、第一五頁(以下「引用例」という。)には、プラチナスバイブロルシフアーPVL-3(以下「PVL-3」という。)の外観図(別紙図面(二)参照)及び「〈1〉 PL-3チヤンバー本体より機械室(冷凍機ユニツト)を分離し、その部分へ振動子が取り付けられるようになつている。〈2〉 チヤンバー本体脚部にキヤスターが取り付けられ、振動子にはキヤスターがない。したがつて、振動子は固定式でチヤンバーが移動式である。」との記載が認められ、「同心」第一四号、田葉井製作所一九七〇年一一月発行の第四頁、第五頁には、一九七〇タバイ環境試験機器シヨーが一一月二五日、二六日に大阪マーチヤンダイズマート二階展示ホールB会場で開催されることになつたこと、出品製品の一つにPVL-3があること及び来場対象者に主に近畿地区の各企業、官公庁、大学関係の研究者、技術者一〇〇〇人以上を予定していることの記載が認められ、「同心」第一五号、田葉井製作所一九七一年一月発行の第六頁、第七頁には、前記シヨーの開催結果の報告及び会場風景の写真の掲載が認められ、株式会社大阪マーチヤンダイズ・マート取締役社長山口寅治良昭和五七年一〇月二一日作成の「展示ホール使用証明書」には、田葉井製作所は、昭和四五年一一月二四日ないし二六日、大阪マーチヤンダイズ・マートビル二階Bホールを使用して、タバイ環境試験器シヨーを開催したとの記載が認められる。

そこで、証人鈴木繁実及び同服部佳光の各証言(ただし、証人服部佳光の証言中、後記措信できない部分を除く。)ならびに前記各記載を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 田葉井製作所は、下部にキヤスターが付いた恒温恒湿器を振動試験機の上方において水平方向に移動可能にするとともに、前記恒温恒湿器の底部に、この恒温恒湿器が前記振動試験機の上方に移動されたとき、前記振動試験機の上方に突出した振動軸を前記恒温恒湿器の前面から受け入れる切欠部及びこの切欠部に連設し前記振動軸の外周の後半部に密着する半円形部を設け、また、前記切欠部に、前記振動軸の前半部に密着して前記半円形部とともに前記振動軸の挿入孔を形成する半円形部を有する切欠断熱材を前部から嵌合可能に設け、この切欠断熱材を前部へ取り外して前記恒温恒湿器を移動することにより、前記振動軸を前記恒温恒湿器に挿入し、試験終了後に前記振動軸を前記恒温恒湿器から抜き出して前記恒温恒湿器と前記振動試験機とが分離されるようにしたPVL-3と呼称する環境試験装置を、昭和四五年六月頃から大阪市の本社で製造を開始し、同年一〇月に完成した。

(2) 田葉井製作所は、昭和四五年一一月に大阪マーチヤンダイズ・マートビルにおいて開催した一九七〇タバイ環境試験機器シヨーで前記環境試験装置を展示し、鈴木繁実等の説明員が多数の観客に説明した。

(3) 田葉井製作所は、前記シヨーの案内状約三〇〇〇通を大学、研究所の研究者又は民間の技術者、公害担当者等に送り、約一〇〇〇名が来場した。

ただし、証人服部佳光の前記環境試験装置の製造に関する証言は、同人が当時東京営業所に勤務していたので伝聞のため措信し難く、他に前記事実認定を覆えすに足りる証拠はない。

したがつて、前記環境試験装置は、本件発明の特許出願前に日本国内において公然知られた発明と認められる。

(三)  次に、本件発明を前記環境試験装置と比較する。

まず、本件発明の特許請求の範囲の第一項(以下「本件第一発明」という。)及び第三項(以下「本件第三発明」という。)は、前記環境試験装置の「恒温恒湿器」、「振動試験機」、「振動軸」、「切欠断熱材」が、それぞれ本件第一発明及び本件第三発明の「恒温槽」、「加振器」、「加振軸」、「底部蓋」に相当し、全体の構造に相違するところがないから、前記環境試験装置と同一と認められる。

続いて、本件発明の特許請求の範囲の第二項(以下「本件第二発明」という。)の加振器の両側に一対のレールを設けた点は、種々の移送機構に案内及び摩擦抵抗の減少手段として常用されているレールを、単に前記環境試験装置に付加したものにすぎないというべきであるので、両者は同一と認められる。

更に、本件発明の特許請求の範囲の第四項(以下「本件第四発明」という。)の底部蓋が恒湿槽の底部から上方に取り外せるようになつている点は、前記環境試験装置の切欠断熱材を前方へ取り外す構造を、単に種々の容器類に常用されている上方へ取り外す構造に設計変更したものにすぎないというべきであるから、両者は、同一と認められる。

更に、本件発明の特許請求の範囲の第五項(以下「本件第五発明」という。)の底部蓋が恒温槽の底部に枢着されている点は、前記環境試験装置の切欠断熱材を前方へ取り外す構造を、単に種々のケース、建具類に常用されている枢着構造に設計変更したものにすぎないというべきであるので、両者は同一と認められる。

(四)  したがつて、本件第一ないし第五発明は、その出願前に日本国内において公然知られた発明と認められ、特許法第二九条第一項第一号に該当し、同条同項の規定に違反して特許されたものであるから、同法第一二三条第一項第一号の規定により無効とする。

4  審決の取消事由

昭和四五年一一月に大阪マーチヤンダイズ・マートビルにおいて開催された一九七〇タバイ環境機器シヨー(以下「本件シヨー」という。)に引用例記載のPVL-3と呼称される装置(以下「引用例記載の装置」という。)が展示されたことは争わない。

しかしながら、本件シヨー開催時において、PVL-3と呼称される装置には、少なくとも次の二つのタイブの装置が存在していた。

(A)  恒温恒湿器の底板に切欠部と切欠断熱材とを備え、恒温恒湿器を移動させることによつて振動試験機の振動軸を前記切欠部を通して恒温恒湿器に挿入し、あるいは抜き出し、振動試験機と恒温恒湿器とが結合及び分離可能に構成されている装置(以下「切欠タイプの装置」という。)

(B)  恒温恒湿器の底板には振動軸挿通用の貫通孔が形成されている装置(以下「貫通孔タイプの装置」という。)

引用例記載の装置は、貫通孔タイプの装置であり、少なくとも審決挙示の証拠によつては切欠タイプの装置と認定することのできないものであるから、本件発明の特許出願前、引用例記載の装置が本件シヨーに展示されたからといつて、本件発明が特許出願前に日本国内において公然知られた発明であるとすることはできない。

しかるに、引用例記載の装置は切欠タイプの装置であり、本件第一ないし第五発明は、その特許出願前に日本国内において公然知られた発明であるとした審決の認定、判断は誤りであり、審決は違法であるから、取消されるべきである。

(一)(1) 審決は、引用例の第一五頁に記載された別紙図面(二)の外観図及び説明文と本件審判事件の証人鈴木繁実、同服部佳光の各証言に基づいて、引用例記載の装置は、切欠タイプの装置であると認定、判断しているが、本件シヨー開催時において、引用例記載のPVL-3と呼称される装置には、少なくとも切欠タイプの装置と貫通孔タイプの装置が存在していたのであり、このことは「Platinaus V Lucifer PVL-3A取扱説明書」(甲第六号証)及び鈴木繁実の証人調書(甲第五号証の二)から推定できる。すなわち、

右取扱説明書に記載されている振動試験機付恒温恒湿器は審決認定の装置のような切欠部を有するものではなく、振動試験機の振動軸は恒温恒湿器底部に穿設した貫通孔に挿入されるタイプのものであり、このタイプのものもプラチナスバイブロルシフアーPVL-3A(以下「PVL-3A」という。)と呼称されている。そして、鈴木繁実は、このPVL-3AはPVL-3のモデルチエンジされたものであり、恒温恒湿器と振動試験機との結合については変つていない旨証言している(前記証人調書70項ないし72項)から、PVL-3と呼称される装置においても、右取扱説明書に記載されているものと同様の構造のものが存在していたことが推定される。

(2) ところで、引用例記載の装置が切欠タイプの装置か貫通孔タイプの装置かについて検討すると、引用例には、振動試験機と恒温恒湿器との結合態様については全く記載されておらず、不明であるとともに、振動試験機が恒温恒湿器の底部に設けられた切欠部を介して該恒温恒湿器と結合、分離することが可能な切欠タイプの装置であることを窺わせる記載はなにもない。かえつて、引用例中の別紙図面(二)の外観図及び説明文を総合すると、引用例記載の装置は、恒温恒湿器(「チヤンバー本体」)はキヤスターを有する移動式であり、振動試験機(「振動子」)はキヤスターを有さず、恒温恒湿器の下部の板材上に載置固定され、恒温恒湿器を移動させると振動試験機も一緒に移動するように構成されていると解釈され、この解釈からすると、引用例記載の装置は、切欠タイプの装置であると認めるよりも貫通孔タイプの装置であると認める方がより合理的である。けだし、右のように恒温恒湿器の下部の板材上に振動試験機を載置固定する構成では、恒温恒湿器を移動させると振動試験機も一緒に移動するので、たとえ切欠を設けていても、切欠を設けたことの最大のねらいである恒温恒湿器を移動させることによつて容易に振動試験機の振動軸を恒温恒湿器に挿入し、抜き出せるという効果を実現させることができず、したがつて、引用例記載の装置が切欠タイプの装置であると認めるのは不合理であるからであり、反面、それを貫通孔タイプの装置であると認める場合には、何らそのような不合理な点は存しないからである。

(3) 本件審判事件の証人鈴木繁実、同服部佳光は、本件シヨーに展示された引用例記載の装置は切欠タイプの装置である旨証言しているが、右証言は次の理由により信憑性が低く、この証言によつて引用例の前記記載からこの装置が貫通孔タイプの装置であると認める合理性を覆えすことができない。すなわち、

鈴木繁実は、引用例の別紙図面(二)について、「この絵ですと恒温恒湿器の下にキヤスターが付いており、恒温恒湿器の下部の前部の下にはりがついているようになつているが、実際はこの部分が取りはずせるなり、ない状態で恒温槽のみが移動できるようになつています。」(前記証人調書45項)と証言しているが、「はりをはずして振動器を下に置いたままで、恒温槽だけを後ろにずらすという形ということですか。」という質問に対しては、そうである旨の明確な証言はなく、「このイラストは現物を正しく表しているかはつきりしません。製造したものはこのはりが入つていないはずです。」(同46項)というきわめて不明瞭な証言をしている。また、鈴木繁実は、前記証人尋問の際に前記証人調書末尾添付第一図のとおり作図し、この図面に記載されたとおりの構造の装置を昭和四五年一一月に四台製作完成し、そのうちの一台を本件シヨーに展示し、説明したと証言しているのであるから、証人作図の装置と引用例の別紙図面(二)の装置とは同一であるはずであり、両者が異なる場合には明確に後者が間違いである旨証言すべきであるのに、前記のとおりきわめて不明瞭な証言に終始し、また、別紙図面(二)からは恒温恒湿器の下部に設けられた振動試験機載置板というべき部材を振動試験機の前部に設けられた取付け、取外し可能な「はり」と呼称する不自然な証言をし、更に一旦この「はり」の存在を認めながら、続いて前記のように「製造したものはこのはりが入つていないはずです。」とその存在を否定し、一貫性のない証言をしている。

次に、服部佳光も切欠タイプの装置が本件シヨーに展示されたことを証言しているが、同人が作図した証人調書(甲第五号証の三)の末尾添付の第二図に記載の装置は、振動試験機が恒温恒湿器下部に組み込まれて宙に浮いた状態となつている。この装置が切欠タイプの装置であるならば、振動試験機は恒温恒湿器のキヤスターが載つている床面上に載置されているべきであり、証言内容と図面内容とが矛盾する。振動試験機が床面上に載置されているか否かは展示された装置が切欠タイプの装置であるか否かを判断するにあたつてきわめて重要であり、この点に矛盾が存在する以上、同人の証言をそのまま信用することはできない。

更に、右両名は、いずれも本件無効審判請求人である田葉井製作所の役員及び社員であり、本件審判の利害にかかわる当事者ともいうべきものであり、その証言内容については、その外にそれを裏付ける証拠もない以上、その信憑性を疑わざるをえない。

以上のとおり、本件審判事件の証人鈴木繁実、同服部佳光の各証言は、きわめて重要な点において不明瞭であり、矛盾を含み、一貫性を欠くものであつて、両証人の本件審判との利害をも考え合わせると、この証言によつて引用例の前記記載からこの装置が貫通孔タイプの装置であると認める合理性を覆えすことができない。

(二)(1) 被告らは、原告の、本件シヨー開催時において、PVL-3と呼称される装置には、切欠タイプの装置と貫通孔タイプの装置の二つのタイプが存在していた旨の前記(一)(1)の主張に対し、PVL-3と呼称される装置は、昭和四八年前半までは切欠タイプの装置のみであつた旨主張する。

しかしながら、被告ら援用の設計通達書(乙第五号証)は、昭和四八年六月二五日作成のものであり、右通達書により、その作成前において田葉井製作所が切欠タイプの装置を製作していたことは立証できても、切欠タイプの装置しか製作していなかつたことを立証しうるものではない。また、鈴木繁実の証人調書70項にば、「PVL-3AはPVL-3をモデルチエンジしたものであり、このモデルチエンジは昭和四八年頃から実施された。」旨記載されているだけで、これを被告ら主張のような趣旨に理解すべき資料となるような記載がないから、これらの証拠を根拠とする被告らの前記主張は理由がないものである。なお、被告らの援用する取扱説明書(乙第二号証)、証明書(乙第三号証、第四号証)はいずれも製造年月日不詳の装置若しくは本件シヨー開催時以降に購入された装置に関するものであり、被告らの前記主張事実を立証するものではない。

(2) 被告らは、原告の、引用例記載の装置は、切欠タイプの装置であると認めるよりも貫通孔タイプの装置であると認める方がより合理的であるとの前記(一)(2)の主張に対し、振動試験機を恒温恒湿器の下部の板材上に載置した装置は田葉井製作所において過去も現在も一台も製作していない旨及びそのように装置を構成した場合の不都合点を挙げて、原告の右主張は妥当性を欠くものである旨主張する。

しかしながら、板材上に載置するタイプが種々の不都合を有するからといつても、その不都合が装置全体の成立性や目的性を阻却するような場合はともかく、そうではなく単なる不都合であるに止まるならば、それのみをもつてして装置がそのように構成されていないことの根拠にはなりえない。けだし、技術は順次進歩し、当初の技術は一般的に何らかの不都合を有し、それが序々に改良されていくものだからである。

また、被告らは、「タバイ74製品案内」(乙第六号証)を参照して、引用例中の説明文中の解釈を行つているが、右「タバイ74製品案内」は昭和四九年の製品案内であり、かつ同記載の装置はどのような構造であるか全く不明であり、しかも引用例とは何の関連もないものであるから、被告らの解釈は妥当でない。

(3) 仮に、引用例記載の装置は、被告らが主張するとおり、振動試験機は床面上に載置され、恒温恒湿器を動かすことによつて振動試験機と恒温恒湿器とが結合、分離することが可能であるように構成されていると解釈しても、その解釈は引用例記載の装置における振動試験機と恒温恒湿器との結合態様の解釈に何ら影響を与えるものではなく、未だ両者の結合態様は引用例の記載自体では全く不明であり、引用例記載の装置が切欠タイプの装置であると断定することはできない。けだし、貫通孔タイプの装置において、振動試験機を床面上に載置し、かつ恒温恒湿器を移動式として、両者を結合、分離することが可能であるように構成することができるものであるからであり、引用例記載の装置を貫通孔タイプの装置と考えても、引用例の記載内容との間に何ら矛盾は生じないからである。

第三  被告らの答弁及び主張

1  請求の原因1ないし3の事実は認める。

2  同4の審決の取消事由の主張は争う。

審決の判断は正当であつて、審決には原告主張の違法はない。

(一)(1)  原告は、本件シヨー開催時において、PVL-3と呼称される装置には、切欠タイプの装置と貫通孔タイプの装置とが存在していた旨主張する。

振動試験機付恒温恒湿器には、切欠タイプの装置と貫通孔タイプの装置とがあることは認める。

しかしながら、PVL-3と呼称される装置は、切欠タイプの装置のみである。田葉井製作所が切欠タイプの振動試験機付恒温恒湿器に加え、貫通孔タイプの装置も製作するようになつたのは、設計通達書(乙第五号証)に示すよかに、昭和四八年後半以降であり、それまでは切欠タイプの装置だけを製作していたものであつて、原告の援用する

「Platinaus V Lucifer PVL-3A取扱説明書」(甲第六号証)に記載された装置は、本件シヨー開催当時は存在していなかつたPVL-3Aであつて、このことは、鈴木繁実の証人調書(甲第五号証の二)70項の外、「Platinaus V Lucifer PVL-3A取扱説明書」(乙第二号証)、証明書(乙第三号証、第四号証)から明らかである。

(2)  原告は、引用例の別紙図面(二)及び説明文を援用し、引用例記載の装置は、恒温恒湿器の下部の板材上に振動試験機が載置固定され、恒温恒湿器を移動させると振動試験機も一緒に移動するように構成されていると解釈される旨主張する。

しかしながら、田葉井製作所では振動試験機を恒温恒湿器本体の下部の板材上に載置した振動試験機付恒温恒湿器を過去も現在も製作したことはなく、振動試験機は、「タバイ74製品案内」(乙第六号証)第六頁に記載したように、わざわざ床面に基礎工事を施してその上に固着するようにしているのである。このように振動試験機を床面に固定し、恒温恒湿器にキヤスターを付けて移動できるようにしたのは、振動試験機を用いず恒温恒湿試験のみを行う場合の便を図つたものであり、そのため引用例の第一五頁には、「チヤンバー本体脚部にキヤスターが取り付けられ、振動子にはキヤスターがない。したがつて、振動子は固定式でチヤンバーが移動式である。」と記載してある。

また、振動試験機は可能な限り水平に設置することが望ましいため、床面の基礎に固定する理由があり、原告が主張するように振動試験機を恒温恒湿器の下部に設けた板材上に載置しているのであれば、振動試験機を必要としない試験の場合は恒温恒湿器と振動試験機とを分離することが非常に不便となり、また、分離しないで試験を行うと、恒温恒湿器本体内の温度を均一にする必要があるため、振動軸や振動テーブルなども熱せられ、熱エネルギーの浪費となるとともに必要のない箇所に熱を加えることになつて好ましくない。

原告が援用する引用例の別紙図面(二)はイラストであり、このイラストは宣伝的なコマーシヤルベースで作成されたもので、設計図あるいは技術文書である取扱説明書などと同一レベルで論じられるものではない。

(3)  また、原告は、本件審判事件の証人鈴木繁実、同服部佳光の各証言は信憑性が低く、この証言によつて引用例の前記記載からこの装置が貫通孔タイプの装置であると認める合理性を覆えすことはできない旨主張する。

しかしながら、引用例の記載をもつて引用例記載の装置が貫通孔タイプの装置であるといえないことは前述のとおりであり、鈴木繁実が証人調書46項において「このイラストは現物を正しく表しているかはつきりしません。製造したものはこのはりが入つていないはずです。」と証言しているのは、実際に四台製作し、このうち一台をシヨーに展示して説明したものでそのものはイラストのようにはりはなかつたはずであるといつているのであつて、はりがあつてもなくても、引用例のイラストに示されたものは恒温恒湿器と振動試験機とを一体化する板材と解することは合理的でなく、この証言をもつて信憑性が低いとはいえない。また、鈴木繁実が証人調書70項ないし72項において、PVL-3は昭和四八年頃モデルチエンジされてPVL-3Aと呼称され、両者は恒温恒湿器の計装関係、水回路の部品などの変更はあるが、振動試験機との結合関係については変わつていない旨証言したのは、PVL-3をPVL-3Aにモデルチエンジした当時はまだ貫通孔タイプの装置は存在せず、PVL-3Aを切欠タイプの装置から貫通孔タイプの装置に変更したのは、更にその後、昭和四八年六月二五日付設計通達書(乙第五号証)作成以後の製作に限られていたという事情のもとで、このPVL-3Aへのモデルチエンジ当時のことを述べたまでであつて、事実に反する証言ではない。

次に、服部佳光の証人調書末尾添付の図面については、この作図は設計図ではなく、特許庁審判廷において証人として尋問されるという不慣れな立場からくる緊張感のもとに作図したものであり、しかも振動試験機の重さを十二分に熟知している証人が画いた図であつて、前述のようにそれを板材上に載せられないことがはつきりしている以上、右図面を振動試験機が宙に浮ている状態を現わしているものと判断することは妥当でない。

更に、原告は、右両名が本件無効審判請求人の役員及び社員であるから信憑性を疑わざるをえない旨主張するが、両名は特許庁審判廷において真実を述べることを宣誓しており、真実を述べなかつたことを裏付ける根拠に基づかない原告の右主張は正しいとはいえない。

(4)  原告は、仮に、引用例記載の装置において振動試験機と恒温恒湿器とが結合・分離可能に構成されているとしても、なおこれを貫通孔タイプの装置といえる旨主張する。

貫通孔タイプの装置においても振動試験機と恒温恒湿器とが結合・分離可能であることは認める。

しかしながら、被告らは、引用例だけでは引用例記載の装置が切欠タイプの装置であると明確に立証することができないので証人を申請し、他の書証を提出したのであつて、これらの証拠によつて引用例記載の装置が切欠タイプの装置であることは明らかである。

第四  証拠関係

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

1  請求の原因1ないし3記載の事実は、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

(一)  成立に争いのない甲第八号証によれば、本件発明は、温度、湿度試験とを同時に行えるように恒温恒湿器(恒温槽)と振動試験機(加振器)とが組み合わされている複合環境試験装置に関するもの(本件発明の特許公報第二欄第六行ないし第八行)であること、従来の複合環境試験装置は、振動試験機の振動軸(加振軸)が恒温恒湿器内に突出し、振動試験機と恒温恒湿器とを分離できない構造(同欄第一四行ないし第一七行)のいわゆる貫通孔タイプの装置であり、恒温恒湿器だけを使用して温度、湿度試験を行う場合、あるいは振動試験機だけを使用して振動試験を行う場合に使いにくい欠点があつたこと(同欄第一八行ないし第二一行)、これに対し、本件発明は、振動試験と温度、湿度試験とを独立して別個に行う場合には、振動試験機と恒温恒湿器とが簡単に分離できるように、恒温恒湿器を移動可能に構成するとともに、恒温恒湿器の前面に振動試験機の振動軸をそのまま挿入できる切欠部を設け、恒温恒湿器を振動試験機の上方へ移動したとき、この切欠部から振動軸を恒温恒湿器内に入り込ませて恒温恒湿器の底部に設けた第一半円部に密着させ、また前記切欠部に第一半円部とともに振動軸の挿入孔を形成する第二半円部を設けた切欠断熱材(底部蓋)を嵌合して切欠部を遮蔽するようにしたことを特徴とし(同欄第二五行ないし第三欄第一行)、当事者間に争いのない前記本件第一ないし第五発明の要旨を必須の構成要件とするものであつて、いわゆる切欠タイプの装置に属するものであると認められる。

(二)(1)  昭和四五年一一月に開催された本件シヨーにおいて、引用例記載のPVL-3と呼称される装置が展示されたことは、当事者間に争いがない。

原告は、引用例記載の装置は、貫通孔タイプの装置であり、少なくとも審決挙示の証拠によつては切欠タイプの装置とは認定することのできないものである旨主張するので、引用例記載の装置の構成について検討すると、原本の存在及び成立に争いのない甲第一号証によれば、引用例は、田葉井製作所が販売促進のために発行している雑誌であるが、その第一五頁に、新製品としてPVL-3を別紙図面(二)とともに紹介した記事が掲載されていること、右記事には、PVL-3は、振動試験機付恒温恒湿器であつて、広範囲の温度、湿度試験のほか振動耐久試験、共振試験等を同時に行うことのできる複合環境試験装置に関し、チヤンバー本体(PVL-3準拠)、振動試験機(IMV製VS-三二〇二型準拠)、独立制御盤とによつて構成され、チヤンバー本体と振動試験機(振動子)との関連については、「〈1〉 PL-3チヤンバー本体より機械室(冷凍機ユニツト)を分離し、その部分へ振動子が取り付けられるようになつている。〈2〉チヤンバー本体脚部にキヤスターが取り付けられ、振動子にはキヤスターがない。したがつて、振動子は固定式でチヤンバーが移動式である。」(同頁左欄第一八行ないし右欄第四行)旨記載されていることが認められ、右の事実によれば、引用例には、恒温恒湿器と振動試験機との結合態様についての直接的な記載はないが、恒温恒湿器を構成するチヤンバー本体が移動式で、振動試験機は固定式であるから、恒温恒湿器を移動することによつて両者を結合、分離することが可能であるようにする構成のものと認められる。

そして、成立に争いのない甲第二ないし第四号証(原本の存在も争いがない。)、第五号証の一ないし三、第六号証及び乙第一ないし第五号証、第七、第八号証によれば、田葉井製作所は、環境試験装置の製造販売を主たる営業内容とし、気象的環境試験装置として恒温恒湿器及び振動試験機付恒温恒湿器を製造販売してきたこと、振動試験機付恒温恒湿器については、田葉井製作所では、従来恒温恒湿器の下部に振動試験機を配置し、恒温恒湿器の底部に穿設した貫通孔の中に振動試験機の振動軸を差し込んで固定する方式を採用していたが、このような振動試験機の取り付けが煩雑で容易でないため、振動試験機の振動軸を固定したまま、恒温恒湿器を水平に移動して、容易に両者を結合できるようにするため、床面上に振動試験機を載置し(望ましくは、床面に据え付けて固定し)、他方、キヤスターを有する恒温恒湿器の底部前面に、振動試験機の振動軸をそのままこの底部にはめ込むことができる切欠部を設け、かつ、この切欠部の最奥部の半円形をなす部分と共同して振動軸の挿入孔を形成する先端半円形の切欠断熱材を配設し、恒温恒湿器を振動試験機の上方に移動するときは、切欠断熱材を取り去つて振動軸を切欠部前面から恒温恒湿器内にはめ込ませ、次いで切欠断熱材を嵌合して切欠部を遮蔽するようにした切欠タイプの装置を設計し、昭和四五年六月頃から右装置の製作に着手し、同年一〇月頃完成をみたので、同年一一月二五日、二六日、PVL-3と名付けて、他の製品とともに本件シヨーに展示したこと、本件シヨーには約一〇〇〇名が来場し、田葉井製作所の社員が多数の来場者に対し、PVL-3の技術内容を説明したこと、その後、PVL-3は恒温恒湿器の計装関係、水回路の部品などを設計変更し、PVL-3Aとして製造販売されてきたが、田葉井製作所においては、昭和四八年六月二五日付設計通達書(乙第五号証)により、PVL-3Aを切欠タイプの装置から、振動試験機を床面に載置し、他方、キヤスターを有する恒温恒湿器の底部に貫通孔を設け、恒温恒湿器を振動試験機の上方まで移動し、振動試験機の振動台と補助テーブルとを着脱自在な、前記振動軸に相当する連結軸(又は連結棒)で接続することにより、両者を結合、分離することを可能にした貫通孔タイプの装置に変更することとし、その後、実際にPVL-3Aの貫通孔タイプの装置の製作に入り、あわせて、特別注文に基づいて製作した切欠タイプの装置とともに販売してきたことが認められ、引用例の前記記載に右認定事実を総合すると、本件シヨーに展示された引用例記載の装置は、振動試験機と恒温恒湿器との結合態様において本件第一ないし第五発明と同一の切欠タイプに属する複合環境試験装置と認めるのが相当である。

(2)  原告は、本件シヨー開催時において、PVL-3には、切欠タイプの装置と貫通孔タイプの装置とが存在していたのであり、このことは、「Platinaus V Lucifer PVL-3A取扱説明書」(甲第六号証)及び鈴木繁実の証人調書(甲第五号証の二)から推定できる旨主張する。

しかしながら、原告の援用する甲第六号証は、前記認定のPVL-3の改良型であるPVL-3Aの取扱説明書であり、PVL-3には切欠タイプの装置しか存せず、PVL-3Aとなつて後、切欠タイプの装置のほか恒温恒湿器と振動試験機の結合・分離が可能な貫通孔タイプの装置が製作されたことは前記認定のとおりであり、また、鈴木繁実の証人調書(前掲甲第五号証の二)70項ないし72項は、前記認定事実、ことに、PVL-3Aが貫通孔タイプの装置に変更されたのは、前記認定のとおり、PVL-3からPVL-3Aにモデルチエンジされた後である事実に照らし、PVL-3からPVL-3Aに型式番号を変更する際に構造変更された部分は恒温恒湿器の計装関係と水回路の部品などであつて、その際には、振動試験機との結合関係については変更されなかつたとする趣旨の証言と理解することができ、これらの証拠をもつて、本件シヨー開催当時、PVL-3には、切欠タイプの装置のほか貫通孔タイプの装置も存したことの根拠とすることはできない。

また、原告は、引用例の記載(別紙図面(二)の外観図及び説明文)を総合すると、引用例記載の装置は、振動試験機が恒温恒湿器の下部の板材上に載置固定され、キヤスターを有する恒温恒湿器を移動させると振動試験機も一緒に移動するように構成された貫通孔タイプの装置であると認める方がより合理的である旨主張する。

しかしながら、引用例には、前記のとおり、「チヤンバー本体脚部にキヤスターが取り付けられ、振動子にはキヤスターがない。したがつて、振動子は固定式でチヤンバーが移動式である。」と記載されており、振動試験機が原告主張のように恒温恒湿器の下部の板材上に載置されているのであれば右の記載と明らかに矛盾する。なるほど、引用例の別紙図面(二)には、キヤスターの取り付けられたチヤンバー下部に置かれた振動試験機の前面に、チヤンバーの両下端に横にわたされた「はり」ともみられないではない部品が描かれていることが認められるが、これだけを根拠に振動試験機は恒温恒湿器の下部の板材上に載置されているとは到底認めることはできない。そもそも引用例の別紙図面(二)は図面自体から明らかなようにイラスト(さし絵)風の外観図であつて、設計図面や特許出願の願書に添付される図面のような当該装置の正確な構成を図示したものではなく、別紙図面(二)のみに基づいて前記記事とは無関係に、引用例記載の装置を振動試験機が恒温恒湿器の下部の板材上に載置された貫通孔タイプの装置と解釈することはできず、また、これが引用例記載の装置を切欠タイプの装置と認定することの妨げとなるものではない。

更に、原告は、本件審判事件の証人鈴木繁実、同服部佳光の証言は信憑性が低く、この証言によつて引用例の前記記載からこの装置が貫通孔タイプの装置であると認める合理性を覆えすことができない旨主張する。

原告の右主張は、引用例の記載を総合すると、引用例記載の装置は貫通孔タイプの装置であると認めることに合理性があることを前提とするものであつて、その前提において既に理由がないことは、前述のとおりであるが、鈴木繁実の証人調書(前提甲第五号証の二)のうち、原告の指摘する45項、46項も右証言に至る経緯に照らすと、引用例の別紙図面(二)には恒温恒湿器の下部前部に「はり」がついているようになつているが、このイラストは現物を正しく表現したものでなく、本件シヨーに展示された引用例記載の装置には、「はり」が入つていなかつた趣旨を述べているものであつて、同人の証言の信憑性を疑わしめるような証言ということはできない。また、服部佳光の証人調書(前提甲第五号証の三)のうち、原告の指摘する服部佳光が作図した同調書添付の第二図についても、この図面は、引用例記載の装置が恒温恒湿器の下部前面に切欠部を設けた装置であることを強調する趣旨できわめて概略的に恒温恒湿器と振動試験機とを組み合わせた状態の斜視図及び継断面図を示したにすぎないことは図面自体から明らかであつて、その証言内容に照らし、右図面において振動試験機の下部が床面上より宙に浮いているように描かれているとしても、そのことから直ちに証言内容と図面内容とが矛盾し、その証言の信憑性を疑うべきものとすることはできない。そして、前掲甲第五号証の二、三によれば、右証言当時、鈴木繁実は田葉井製作所の半導体機器本部技術部長、服部佳光は同社の取締役営業部長であつたが、両名は宣誓のうえ、その記憶するところを具体的に証言したものであつて、その証言内容が格別不自然不合理であるとは認められないから、同人らが田葉井製作所の役員又は社員であることをもつてその信憑性を疑うべき理由は存しない。

最後に、原告は、引用例記載の装置は、被告らが主張するとおり、振動試験機は床面上に載置され、恒温恒湿器と結合・分離可能に構成されているとしても、貫通孔タイプの装置においてもそのように構成することができるから、引用例記載の装置を貫通孔タイプの装置と考えても引用例の記載内容との間に何ら矛盾を生じない旨主張する。

貫通孔タイプの装置においても振動試験機と恒温恒湿器とが結合・分離可能に構成できることは当事者間に争いがないが、本件シヨーに展示されたPVL-3には切欠タイプの装置のみであつて貫通孔タイプの装置はなく、その改良型であるPVL-3Aについて、昭和四八年六月二五日付設計通達以後、振動試験機と恒温恒湿器とが結合・分離可能に構成された貫通孔タイプの装置が製作されたことは前述のとおりであるから、原告主張の理由によつては、引用例記載の装置が貫通孔タイプの装置であると認めることはできず、またこれが切欠タイプの装置であることを認める妨げとなるものでもない。

(3)  以上のとおり、引用例記載の装置は、本件第一ないし第五発明と同一の切欠タイプに属する複合環境試験装置であり、この装置の技術的思想は本件シヨーに展示されたことにより、本件発明の特許出願前に日本国内において公然知られたものと認められるから、これと同趣旨の審決の認定は相当であり、右認定を攻撃する原告の主張は、証拠に対する独自の評価に立脚し議論を展開するにすぎないものである。それ故、引用例記載の装置の技術的思想が公知のものであつたことを理由に、本件第一ないし第五発明は、その特許出願前に日本国内において公然知られた発明であるとした審決の認定、判断は正当であつて、審決には原告の主張する違法は存しない。

3  よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条の各規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 蕪山嚴 裁判官 竹田稔 裁判官 濵崎浩一)

別紙

(一)

〈省略〉

(二)

〈省略〉

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